企画展開催スケジュール
2015年9月28日(月)-10月3日(土)巨匠にみる「絵とは何か」展
2015-09-25
巨匠にみる「絵とは何か」展No.17
ー西洋の視点・東洋の視座
9月28日(月)-10月3日(土)
藤田嗣治《横たわるユキの肖像》―先人未到の裸婦
藤田と言えば裸婦。装飾性と官能性を、二つながらに備えた独自の裸婦が先ずは思い浮かぶが、彼が裸婦を集中的に描くのは1920年代初めからの10数年に過ぎない。それ以後も描きはするが、裸婦は藤田にとってもはや主要なテーマではなくなる。この時期、画家が裸婦に没頭したのは、モデルに恵まれたこともあったが、中でも1924年から生活を共にした「ユキ」ことリュシー・バドゥーとの出会いは決定的であった。抜けるような白い肌の持ち主ゆえに「ユキ」と名付けられた彼女は、藤田が考案した乳白色の下地を存分に生かすことができる最高のモデルとなった。創作意欲をかき立てられた画家は、次々と裸婦の傑作をものしていく。ルネサンス以来、裸婦を描いた名作は枚挙に暇がないが、藤田が目指したのはそのいずれとも異なる。色彩はごく控えめ、絵の具の盛り上げもなく、簡潔にして流麗な輪郭線によって浮かび上がる美しい裸婦の姿。禁欲的ともいえるほどの最小の表現に見えながら、その豊かな存在感、生命力は圧倒的である。白い下地は肌へと転じ、一瞬にして無が有へと変貌する。裸婦の表現において「先人未踏の天地を拓きたい」とする画家の野望は、ここに見事にかなえられたのである。
深谷克典(名古屋市美術館副館長)